2026年8月2日:Bookbound──シャーロック・ホームズに導かれる旅

シャーロッキアン日記

Skyscannerの2026年旅行トレンド調査を紹介する記事を読みました。

旅人たちは一冊の本を求めて旅に出た。
もはや単に数冊の本を詰めるだけではなく、ますます多くの人々が、本のページが旅の目的地を決めるようになっている。

 

この記事の冒頭で以下のようにホームズが取り上げられています。

ロンドン(イギリス)は、221Bベーカー街博物館や、アーサー・コナン・ドイルの作品に登場する名探偵の足跡をたどる数多くのウォーキングツアーなどがあり、シャーロック・ホームズファンを魅了している。

旅行者の57%が、本をきっかけに旅先を決めたり、決めようか迷ったりした経験があるのだそうです。図書館付きホテルを探す人も、前年より7割近く増えているとか。チャールストンやサンタフェでは、文学フェスティバルが著者との交流と町歩きをセットにして、読者だけのイベントだったものが、いつしか他の土地から人を呼び込む理由になっているという話も出ていました。

「Bookbound」——本に導かれる旅、というワードが使われています。

ヘミングウェイの『日はまた昇る』を携えてパンプローナへ向かう人、ジェーン・オースティンの足跡を辿って英国を旅する人。記事を読みながら、自分もロンドン大学に留学していたとき、ホームズ正典や研究書を携えて、1年かけてロンドンのホームズゆかりの地を巡ったという楽しい思い出がよみがえってきました。そして、その後も、例えば昨年ポーツマスやイーストボーンを歩いたこと、ニューヨークでBSI Weekに参加したのも、突き詰めれば「ホームズに呼ばれて旅に出た」という点では同じことをやってきています。

Bookboundの旅は、基本的に「その本の作者」や「その作品の舞台」を訪ねる旅です。ヘミングウェイは実在した作家で、パンプローナは彼が実際に歩いた町です。一方、シャーロッキアンがベイカー街を歩くとき、追いかけているのは作者のコナン・ドイルではなく、ホームズとワトソン博士という「実在した(ことになっている)」人物の史跡を巡る。これがグランド・ゲームとよばれるシャーロッキアンのお遊びで、文学観光というより一段捻れた遊びだと思っています。そのゲームでは、ワトソン博士は依頼人や事件関係者を守るため、住所や人物名を意図的に改変したと考える。

だから同じ「本をきっかけに旅する」でも、行き先で自分がしていることは少し違う気がします。作家の足跡を辿るのではなく、ワトソン博士が巧妙に偽った(であろう)事件現場や登場人物たちの住所を、正典における描写とヴィクトリア時代の町並みの情報を元に検証しに行く。ロンドンの何の変哲もない町並みを巡りながら、イーストボーンの海岸を歩きながら考えていたのも、いつも「ここをホームズやワトソンが歩いたのかもしれない」ということでした。

Skyscannerの調査は、本がきっかけで旅に出る人が増えていることを教えてくれます。私にとってその「一冊」は、正確には四冊の長編と五冊の短編集、合わせて九冊からなるシャーロック・ホームズ正典でした。そして、これからも私と同じ本に導かれてロンドンをはじめとするホームズに登場する街を歩く人が、一人でも増えてくれたら嬉しく思います。

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