2026年8月6日:パブの庭のバスカヴィル家―野外劇「An Untapped Tale」

シャーロッキアン日記

今年の夏、英国各地のパブの庭や屋外会場で、ちょっと変わったホームズ劇が繰り広げられているようです。バーミンガムを拠点とする劇団The Old Joint Stock Theatreによる野外巡演作品、『Sherlock Holmes and the Bitter of the Baskervilles: An Untapped Tale』についてご紹介します。

 

「毎年恒例の夏の野外ツアー」の最新作

この劇団は例年、夏になると劇場を飛び出し、パブの庭やナショナル・トラストの邸宅といった屋外空間を巡演する企画を続けています。昨年は『Wind in the Willows』(たのしい川べ)が好評を博したそうで、今年はその後継としてホームズに白羽の矢が立ったようです。演出のエミリー・スザンヌ・ロイド氏は、「昨年の『たのしい川べ』への反響を受けて、演劇的で遊び心があり、完全に没入できる野外体験をまた作りたいと考えていた」と語っています。

脚本を手がけたのは、アダム・メジド(Adam Meggido)氏。即興ミュージカル『Showstopper! The Improvised Musical』の共同創作者・演出家として知られ、同作は即興演劇として史上初めてオリヴィエ賞を受賞しています。メジド氏はLAMDA(ロンドン・アカデミー・オブ・ミュージック&ドラマティック・アート)で長年教鞭を執ってきた、英国演劇教育界の重鎮でもあります。美術はジョナサン・ブラウン、音楽監督はガビー・ボールが担当。キャストはWill Batty、Will Hamilton、Imogen Vickers、David Hallerの4人という、かなりコンパクトな編成です。

タイトルの「An Untapped Tale」(まだ汲み出されていない物語)が示す通り、これは『バスカヴィル家の犬』の忠実な翻案ではなく、その世界観を借りたオリジナルストーリーのようです。巡演は各地のパブや屋外会場を転々とする形で進んでおり、コッツウォルズのモートン=イン=マーシュ、ストラトフォード・アポン・エイヴォンのBaraset Barn、ハンプシャー州ストックブリッジのThe Mayflyなどが予定に含まれています。

 

現地レビューから:リヴァー・テストのほとりで

7月31日、ストックブリッジのパブ「The Mayfly」での公演について、地元紙にピーター・ニコルソン氏によるレビューが掲載されました。

会場は、リヴァー・テストの流れが夕日にきらめく、まさに絵に描いたような英国の夏の夕べ。レビューはこの立地を「ホームズものの舞台としてこれ以上ないほどふさわしい」と評しています。4人のキャストは楽器演奏・歌唱・演技・コメディを一人何役もこなす多才ぶりで、しかも野外という開放的な空間の中で、声の通りと親密さを両立させる演技の巧みさが指摘されていました。観客に小さな役を割り振って巻き込む参加型の演出も、当夜の楽しさを支えていたようです。

印象的なのは、ハプニングへの対応です。スピーカーからの大きなノイズや、風でガーデンパラソルが倒れるといった不測の事態が起きても、キャストはそれをそのまま即興コメディに転じてみせたとのこと。屋外公演ならではの「制御できないもの」を、逆に演目の魅力に変えてしまう現場力の高さがうかがえます。レビューは、黄金色の夏の光が徐々に夕闇へと溶けていく時間の推移そのものが、この夜の体験を特別なものにしていた、と結んでいました。

 

劇場の外に出るホームズ

正典本編とは無関係のオリジナルストーリーでありながら、「バスカヴィル家の犬」という広く知られた題材の空気感を借り、しかもそれを劇場ではなくパブの庭という、英国の夏らしい生活の場に持ち込む——今年のOld Joint Stock Theatreの試みは、単なる翻案というより、ホームズという素材の「使い方」そのものに新しさがあるように思います。ロンドンのリージェンツ・パーク野外劇場での大型公演から、地方のパブの庭での小回りのきいた巡演まで、今年の夏の英国は、あちこちでホームズが野外に飛び出しているようです。


出典:

コメント

タイトルとURLをコピーしました