2026年9月4日:Sherlock Holmes Magazine Autumn 2026(No.26)が届きました――ブレット未放送映像からピーター・ブラウまで

シャーロッキアン日記

ポストを開けたら、待っていた一冊が届いていました。Sherlock Holmes MagazineのAutumn 2026号、通巻No.26です。表紙を見て真っ先に目が留まったのは、Jeremy Brett and the Mystery of the Abbey Treasure – Investigating the ‘Lost’ Granada Episodes という特集タイトルでした。今回は到着直後ということで、まず目次に目を通しつつ、表紙特集の該当ページだけは実際に本文まで読んでみました。それ以外の記事についてはまだ目次段階の予想にとどまります。

目次から見えてくる今号の構成

今号の目次を訳出すると、以下のような構成になっています。

頁 記事
4 ニュース
6 「修道院の財宝」の謎 ― エイドリアン・ブレイディが、一度も放送されなかったジェレミー・ブレット版ホームズ映像作品の舞台裏を探る
14 私たちが見ることのなかった「引退」 ― ブレットが養蜂家を演じた映像はどうなったのか
16 物語とともに歩んだ人生 ― T・リック・ジョーンズが、シャーロッキアンのピーター・E・ブラウに会う
20 ヴィクトリア朝の「ワールド・ワイド・ウェブ」 ― シャーロック・ホームズはいかに電信を使いこなしたか
28 紳士たちの中の医師 ― マルコム・ノーブルが、アルバニー・ホテルでのコナン・ドイルの一夜を紹介する
33 書類箱(The Dispatch Box)
34 深淵へ ― ダニエル・フリードマンとユージン・B・フリードマンが、「唇のねじれた男」と『どん底の人びと(The People of the Abyss)』の類似点を探る
38 ショルトー少佐の死 ― グラスゴー大学寄生虫学教授マイク・バレットによる新たな分析
43 ベイカー街の女性たち ― ラクシタ・パテルが、正典に登場する女性たちに光を当てた舞台作品の主演俳優にインタビュー
46 では、ワトスンは? ― T・リック・ジョーンズが「シャーロックの城」を再訪し、ワトスン博士にスポットライトを当てた舞台の制作陣に会う
50 「谷」からの眺め ― T・リック・ジョーンズが新作オフ・ブロードウェイ公演の演出家を取材
52 ワトスンのさまざまな顔 ― ジョアンナ・ドレイパー・カールソンによる連載の続編
54 ちょっと変わったことを ― ライターのジョエル・メドウズが新たな挑戦に取り組む
55 ハドスン夫人の日記
56 「消えた数学者」の冒険 ― ジャイルズ・フィリップスによるオリジナル短編小説
64 書籍
66 クロスワード&漫画

表紙特集:ブレットの未放送映像を追う二本立て

6頁「The mystery of the Abbey Treasure」と14頁「The retirement we never saw」には、いずれもジェレミー・ブレットの未放送映像に関する記事が並んでいます。両者は同じ特集の中に置かれていますが、扱っている素材は別物でした。本文を読むと、それぞれ独立した「未放送映像」の謎であることが分かります。

6頁:ある日届いた一本のVHS

筆者はエイドリアン・ブレイディ。発端は、Sherlock Holmes: The Detective Magazine(本誌の前身にあたる雑誌)の編集長デイヴィッド・スチュアート・デイヴィスのもとに、差出人不明の小包が届いたことでした。中には説明書きも手紙も添えられないまま、VHSカセットが一本だけ入っていたそうです。

再生してみると、ジェレミー・ブレットとエドワード・ハードウィック(ワトスン役)による、見たことのない短いシーンが映っていました。時期は2000年、グラナダ版最終作『ボール箱』の放送から6年、ブレット没後およそ5年というタイミングです。正典の未映像化エピソードではなく、内容としては何らかの販促・お祝い用の映像だったようで、デイヴィス自身も当時発行していた雑誌の2000年6月号でこの発見を報告しています。

映像の中身は、ホームズとワトスンのもとに「アビー・ナショナル・ビルディング・ソサエティ」から手紙が届く、という寸劇でした。1898年当時の二人の預金残高(ワトスン917ポンド、ホームズ988ポンド)に、1988年5月30日までの利息がついて合計10万ポンドになった、という設定です。手紙の差出人は実在の人物、当時のアビー・ナショナル会長キャンベル・アダムソンの名で署名されており、日付も「1988年5月30日」と具体的に記されています。最後には「Love from the Granada production team」という字幕で締めくくられ、公開・宣伝目的ではなく内輪向けに作られた映像であることがうかがえます。

記事はこの日付の一致を丹念に追っていて、まず候補に挙がるのが、ブレットが1985年にアビー・ナショナルの銀行支店(ベイカー街の221B相当地)でプレートの除幕式に出席した件でした。ただし取材の結果、このプレートの除幕は実際には1985年10月であったことが分かり、1988年5月という日付とは一致しません。記事はこれを「レッドヘリング(ミスディレクション)」だったのではないかとしています。

もう一つの手がかりは、キャンベル・アダムソン自身がアビー・ナショナルの会長であると同時に、1988年にITVのチャリティー特番「ITV Telethon」を主催するIndependent Broadcasting Telethon Trust(IBTT)の会長にも就任していたという事実です。この年のTelethonは1988年5月30日(バンクホリデーの月曜)にクライマックスを迎えており、これは手紙に書かれた日付と完全に一致します。さらに、その日の放送内でグラナダはコロネーション・ストリートの特別コーナーからちょうど10万ポンドの寄付を行っており、これは映像内でホームズとワトスンが「発見する」金額とも一致します。記事はこれらの符合から、この映像はグラナダがアダムソンに宛てて贈った、Telethonの成功を祝う内輪の贈り物だったのではないかと推測しつつ、あくまで状況証拠であり断定はしていません。

映像自体は現在、YouTubeの「The Jeremy Brett Sherlock Holmes Podcast」で公開されているとのことです。

10〜11頁:もう一つの未放送映像「フォー・オークスの謎」

特集はさらに続き、1992年の第3回ITV Telethonで実際に放送された、もう一つのホームズ・パスティーシュ「The Four Oaks Mystery」も紹介されています。こちらは『時の番人』のIan Kennedy Martin脚本による、ホームズ、Van der Valk(アムステルダム)、Taggart(グラスゴー)、Wexford警部(3局共作)をリレー形式でつなぐ企画物で、グラナダ担当パートはブレットとハードウィックに加え、ホームズの名付け親役でフィリス・カルヴァートが出演したそうです。撮影は『The Last Vampyre』制作中に、シリーズでもおなじみのAdlington Hall(『まだらの紐』のストーク・モラン役)で行われました。

こちらは6頁の映像とは異なり、私的な贈り物ではなく実際に全国放送され、視聴後にブレット本人が番組に出演して寄付金の目録を手渡す場面もあったとのことです。ただし1992年のTelethonは障害者団体からの批判を受けて紛糾し、これが最後のTelethonになったという顛末も記事は伝えています。

14頁:養蜂家ホームズの「引退」映像

もう一本の記事「The retirement we never saw」は、6頁とは全く別の映像を扱っています。こちらが扱うのは、ブレットとハードウィックが養蜂家姿でサセックス・ダウンズの「ホームズの引退後の別荘」らしき場所に立つ、一連の宣伝写真の謎です。この場面はグラナダ版シリーズを通じて一度も放送されませんでした。

ネット上には「Return of Sherlock Holmesシリーズが不評だった場合に備えて撮影された、7分間の未公開エピローグだ」という説(Jeremy Brett LiveJournal発)が出回っていたそうですが、記事はプロデューサーのマイケル・コックス自身の証言をもとに、これを否定しています。コックスによれば、この場面は実際には『第二の汚点』のための正典的なプロローグとして撮影されたもので、著書『A Study in Celluloid』の中で、当該エピソードを「シリーズの中でも最も原作に忠実な回」と評しています。撮影にあたっては、ワトスンが引退後のホームズを訪ね、事件記録の公表許可を求める場面を再現するため、チェシャー州ロスサーンにコテージを借り、養蜂箱まで用意し、ボーア戦争の徴兵広告を小道具に使うことで時代設定(引退後の年月の経過)を表現したとのことです。

ただしブレット本人は、老けメイクを施した「年老いたホームズ」姿に納得しておらず、この場面を外すよう求めたと記事は伝えています。あわせて、当該エピソードが編集段階で大幅に尺超過していたことも重なり、コックス、監督ジョン・ブルース、プロデューサーのジューン・ウィンダム=デイヴィスの判断でこの場面はカットされ、グラナダのアーカイブに保管されることになったそうです。著者キース・フランケルの著書『Granada’s Greatest Detective』でも同様の経緯が語られています。

この養蜂家シーンの映像そのものは現在も所在不明で、残っているのは宣伝写真のみとのことです。そのうちの一枚は、混同されてか『第二の汚点』のVHSパッケージの表紙に使われたこともあったそうです。

16頁:ピーター・E・ブラウへのインタビュー

16頁は、T・リック・ジョーンズによるピーター・E・ブラウへのインタビューです。こちらは斜め読みしかできていませんが、彼の長年のシャーロッキアン活動を振り返る内容となています。ブラウ氏はシャーロッキアン史・団体史の観点から資料価値の高い証言者なので、この記事は個人的にじっくりと読みたいと思っています。ブラウさんとは、今年のBSIウィークエンドで初めてお会いすることができました。大昔、ワシントンDCに住んでいたことがあったので、その時にお会いできていれば、シャーロッキアン人生もまた違った展開になっていたと残念でなりません。

20頁・28頁:まだ読んでいませんが気になる二本

目次だけを見て気になったのが、20頁「The Victorian World Wide Web」(ホームズがいかに電信を使いこなしたか)と、28頁「A doctor among gentlemen」(マルコム・ノーブルによる、アルバニー・ホテルでのコナン・ドイルの一夜を紹介する記事)です。前者は正典における情報網としての電信の役割、後者はドイル研究に関わる話題だと思われます。

34頁:「唇のねじれた男」とジャック・ロンドンをつなぐ論考

34頁は、ダニエル・フリードマンとユージン・B・フリードマンによる寄稿で、「唇のねじれた男」とジャック・ロンドンの『どん底の人びと』(The People of the Abyss, 1903)の類似点を扱っています。「唇のねじれた男」は1891年発表、『どん底の人びと』は1903年発表と、両者の発表時期には十年以上の隔たりがあります。興味深い論点になりそうです。

38頁:ショルトー少佐の死を医学的に読み直す(目次段階の予想)

38頁は、グラスゴー大学寄生虫学教授マイク・バレットによる、『四つの署名』におけるショルトー少佐の死についての新たな分析です。執筆者の肩書きが「グラスゴー大学寄生虫学教授」と明記されていることから、医学・生物学的な知見を踏まえてショルトー少佐の死を再検討する記事なのではないかと期待していますが、寄生虫学という専門分野そのものが分析の軸になっているとまでは、目次だけでは判断できません。私もロンドン大学で公衆衛生を勉強したので、特に注目したい記事の一つです。

舞台化されるベイカー街の女性たちとワトスン

43頁のラクシタ・パテルによるインタビューは、正典に登場する女性たちに光を当てた舞台作品の主演俳優を取り上げています。46頁ではT・リック・ジョーンズが「シャーロックの城」を再訪し、ワトスン博士にスポットライトを当てた舞台の制作陣に取材、50頁では同じくT・リック・ジョーンズが新作オフ・ブロードウェイ公演の演出家を舞台裏取材しています。ここ数号、正典の周辺人物や舞台化作品に焦点を当てる企画が続いている印象があり、今号もその流れの一つと言えそうです。

連載陣とオリジナル短編

52頁はジョアンナ・ドレイパー・カールソンによる連載「ワトスンのさまざまな顔」の続編、54頁はジョエル・メドウズによる新企画、55頁はレギュラーコーナーの「ハドスン夫人の日記」です。56頁にはジャイルズ・フィリップスによるオリジナル短編「消えた数学者の冒険」が掲載されており、パスティーシュ好きとしてはここも見逃せません。

まとめ

表紙特集の6頁・14頁・10〜11頁は実際に読んでみて、「ブレットの未放送映像」とひとくくりにされがちな二つの映像(アビー・ナショナル宛ての内輪向けVHSと、養蜂家姿の未使用エピローグ)が、それぞれ全く別の経緯で生まれた別物だったことがよく分かりました。目次段階での予想では「引退後の養蜂家映像の続き」のようにひとまとめに考えていましたが、実際には無関係の二つの謎だったわけです。今回は到着直後ということで、それ以外の記事はまだ目次から気になったものを拾っただけの段階です。実際に読めば、ここで予想した内容とは違っているところもあるかもしれません。

ピーター・E・ブラウさんとはまた来年1月のBSIウィークエンドで会えるかもしれませんので、彼のインタビュー記事からじっくりと読み進めていきたいと思います。


出典:Sherlock Holmes Magazine, Autumn 2026, No.26, pp.6-14「The mystery of the Abbey Treasure」「The retirement we never saw」(本文既読)、および同誌目次(p.4-66)(Sherlock Holmes Magazine 公式サイト)

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