アメリカのホームズ団体ベイカー・ストリート・イレギュラーズ(BSI)の機関誌『The Baker Street Journal』(BSJ)の2026年秋号(第76巻第3号)が届きました。この号の掲載記事の一覧は、10月5日にBSIの公式サイトで公開されていて、10月8日のホームズニュースでも紹介しました。その実物が、ようやく手元に届いたことになります。
私はBSIの会員ではありませんが、BSJは年ごとに購読を申し込めば読むことができます。年4回の季刊号に、クリスマス特集号を加えた5冊が届きます。今号は春号、夏号に続く、今年3冊目の季刊号です。編集長はダン・アンドリアッコさんです。
今号の目次
目次は以下のとおりです。まだ本文を読んでいないので、日本語訳は仮訳です。
2026年秋号(第76巻第3号)目次
編集者のガス灯(The Editor’s Gas-Lamp)…… 4
ベイカー街への手紙(Letters to Baker Street)…… 5
私のいちばん好きなホームズはロシア人(My Favorite Holmes is Russian)…… 6
ジョナサン・ティーマン
蒙昧なる騎士(The Benighted Knight)…… 15
ロン・レヴィツキー
1944年BSIディナーの写真(The 1944 BSI Dinner Photograph)…… 22
ハリソン・ハント
同時代のヴィクトリア朝人、シャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes the Contemporary Victorian)…… 31
チャールズ・M・ワトスン
霧の日(A Foggy Day)…… 35
モニカ・M・シュミット
ホームズとユーモア(Holmes and Humor)…… 38
ウィリアム・ハイダー
初歩だよ、ワトスン君(Elementary, My Dear Watson)…… 44
マイケル・J・ラヴニツキー
中国での「パイプ三服の問題」(A Three-Pipe Problem in China)…… 47
Yuqing Wang
レジデント・ドクターからの臨床ノート(Clinical Notes from a Resident Doctor)…… 53
ロバート・カッツ
医学博士ジョン・H・ワトスン、元陸軍軍医部(John H. Watson, MD, Late of the Army Medical Department)…… 57
エンリコ・ソリート
1881年のロンドンはバラ色ばかりではなかった(It Wasn’t All Rosy in 1881 London)…… 60
スティーブ・メイソン
編集者の雑記帳(The Editor’s Commonplace Book)…… 67
ベイカー街の在庫目録(Baker Street Inventory)…… 69
「ここに私と一緒に、テラスに立ってくれ…」(”Stand with me here upon the terrace…”)…… 74
犯人は誰だ?(Whodunit?)…… 76
表紙はロシアのホームズ
今号の表紙は、ワシーリー・リヴァーノフが演じるシャーロック・ホームズの写真です。目次ページの説明によると、レンフィルムが制作したソ連時代のテレビシリーズからの一枚です。片手に懐中時計、もう一方の手にルーペを持ち、目を閉じて椅子にもたれています。
このシリーズはイーゴリ・マスレンニコフ監督のもと、1979年から1986年にかけてソ連のテレビ向けに作られました。全5作、11話から成り、ワトスン役はヴィターリー・ソロミンです。リヴァーノフはこのホームズ役が評価され、2006年に英国から名誉MBEを授与されています。また2007年には、モスクワの英国大使館のそばに、二人をかたどったホームズとワトスンの像が建てられました。
今号の最初の論考も、ジョナサン・ティーマンさんの「My Favorite Holmes is Russian」です。表紙と論考がそろって、ロシアのホームズを取り上げた号になっています。ソ連とホームズの関係では、10月18日の日記で、ホームズの印税をソ連に求めた1958〜59年のモスクワ訴訟を取り上げました。
中国のホームズ
もう一本、国外での受容を扱う論考として、Yuqing Wangさんの「A Three-Pipe Problem in China」があります。タイトルの「three-pipe problem」は、「赤髪組合」でホームズが、パイプを三服するあいだ考える問題だとワトスンに告げる場面から取られた言い回しです。中国でのホームズ受容については、このブログでも陳映欣(Yingxin Chen)さんの博士論文を紹介した記事で取り上げています。
正典の一節を借りたタイトル
今号は、正典の言葉を借りたタイトルがいくつも並んでいます。
- 「John H. Watson, MD, Late of the Army Medical Department」は、『緋色の研究』第1部の冒頭で、この物語がワトスンの回想録からの再録であることを示す一文から取られています。
- 「It Wasn’t All Rosy in 1881 London」の1881年は、多くの年代学者がホームズとワトスンの出会いの年としている年です。
- 「Elementary, My Dear Watson」は、ホームズの決め台詞として広く知られています。ただし、この形のままでは正典に出てこないことでも知られる一句です。
- 常設欄の「Stand with me here upon the terrace…」は、「最後の挨拶」でホームズがワトスンに語りかける言葉です。
BSIの歴史と、おなじみの執筆者
ハリソン・ハントさんの「The 1944 BSI Dinner Photograph」は、タイトルからすると、1944年のBSI年次ディナーで撮られた一枚の写真を扱う記事のようです。ハントさんは、10月3日(日本時間4日)に開かれた第6回BSIトラスト講演会の講師で、「Who IS that? Naming the Unknown in BSI Dinner Photos」と題して、BSIアーカイブに残るディナー写真に写った人物を特定する作業について話していました。私もオンラインで聞く予定だったのですが、夜中で起きられず、後半のみ聞いていました。講演の録画は、いずれBSIデジタルアーカイブで公開される予定とされていますが、11月3日時点ではまだ見つかりませんでした。
ハントさんは春号にも「Rathbone, Bruce, and the BSI Redux」を寄稿していました。
また、ロン・レヴィツキーさんは昨年の秋号に「Oscar Wilde and the Aesthetic Sherlock Holmes」を書いていた方です。
連載・常設欄
ロバート・カッツさんの「Clinical Notes from a Resident Doctor」は、春号にも同様の題の欄がありました(春号はBob Katz名義で、題は「by a Resident Doctor」)。BSIの公式サイトによると、この欄はBSI創設者のクリストファー・モーリーが長くこの誌面に書いていた「Clinical Notes by a Resident Patient」へのオマージュです。このほか、「編集者の雑記帳」「ベイカー街の在庫目録」「ここに私と一緒に、テラスに立ってくれ…」「犯人は誰だ?」といった常設欄が巻末に並んでいます。
今号も、少しずつ読み進めていきたいと思います。
参考文献・リンク
- The Baker Street Journal, vol. 76, no. 3, Autumn 2026, The Baker Street Irregulars.
- The Baker Street Irregulars「Autumn 2026 BSJ」(BSJ各号の目次一覧)
- The Baker Street Irregulars「Spring 2026 BSJ」
- Scott Monty「Russian Sherlock Holmes Cartoon」, I Hear of Sherlock Everywhere, April 2015.
- Arthur Conan Doyle Encyclopedia「Vasily Livanov」
- 221-Books「『ベイカー・ストリート・ジャーナル』秋号の目次公開――国内では2027年新作舞台のチケット先行受付が決定」
- 221-Books「2026年10月18日:ホームズの印税をソ連に求めた裁判:1958〜59年のモスクワ訴訟を当時の記録でたどる」
- 221-Books「2026年4月17日:The Baker Street Journalの26年春号が届く」
- 221-Books「2025年11月21日:The Baker Street Journalの秋号が届く」

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