ロンドン・シャーロック・ホームズ協会(SHSL)が新しく始めるオンライン講演シリーズ「The Baker Street Broadcast」の第1回に申し込みました。日時は9月7日(月)UK時間19時〜20時、つまり英国はこの時期サマータイム(BST、UTC+1)なので、日本時間では9月8日(火)午前3時〜4時にあたります。海外会員としての参加だと厳しい時間帯ですが、テーマが「ローザンヌのコナン・ドイル・コレクション」ということで、早起き(というより夜更かし?)する価値がありそうです。
オンライン化への流れ:既存のSpecial Interest Groupsと新しいBroadcast
協会が実施したアンケートで、オンライン開催へのニーズが明らかになったそうです。会員の多くはロンドンから離れた場所に住んでおり、対面式のイベントには参加しづらいという声が背景にあるとのこと。実は協会にはすでに「Special Interest Groups」という枠組みがあり、その一つ「The Well Readed League」というオンライン読書会がすでに好評を得ています(名前は「Red-Headed League(赤毛組合)」のもじりですね)。
協会の公式ページによれば、これまで『緋色の研究』と『四つの署名』を扱ってきたそうで、当日は小グループに分かれて討論したのち全体で感想を共有する形式とのこと。人気が高く、定員に対してキャンセル待ちが出るほどだそうです。次回はこの秋に『ボスコム谷の惨劇』(1891年10月『ストランド』誌初出、『冒険』収録全12話中の第4話)を扱う予定です。
ほかにも、対面イベントを補う非公式の交流企画「The Reformed Diogenes Club」(正典のディオゲネス・クラブと違い、おしゃべり可・2025年からは性別を問わず参加可というのが洒落です)や、Holly Turner氏が主導する創作ワークショップ「The Casebook Collective」もあるようです。今回始まる「The Baker Street Broadcast」は、こうした既存の読書会・交流企画とは別に、講演・レクチャー形式のオンライン企画として新設されたシリーズという位置づけのようです。
第1回のテーマ:ローザンヌのコナン・ドイル・コレクション
「”Dealing with objects of such value”: The Lausanne Arthur Conan Doyle Collection」という正式タイトルの回で、講師はLaurence Pernet氏とのことです。Pernet氏は、ジュネーブ高等経営学院(HEG)に提出した2020年の論文でこのコレクションのデジタル展示を扱っており、現在オンラインで公開されている展示「An Alpine Walk」もおそらくその延長にある企画のようです。
なぜドイルの資料がスイスにあるのか
この点を調べてみると、20世紀を通じた資料の移動の歴史そのものが、なかなか込み入った話でした。ドイルの死後(1930年)、資料は後妻ジーンが管理し、1940年のジーンの死後は3人の子供たちが相続します。原稿の一部は分割されたものの、資料と物品の大半は息子エイドリアン・コナン・ドイルの単独管理下に置かれ、エイドリアンは英国からモロッコ、ポルトガルを経てスイスへと居を移すたびに資料も持ち歩いていたようです。1965年、ヴォー州リュサン(Lucens)の城を購入し、「サー・アーサー・コナン・ドイル財団」を設立。翌1966年には城内に博物館を開設し、開館式には映画『恐怖の研究』(1965年、A Study in Terror)でホームズを演じた俳優ジョン・ネヴィルも出席したそうです。この博物館の目玉である221Bの居間の再現は、1951年の英国祭のホームズ展で使われた復元をそのまま下敷きにしています。1970年にアドリアンが死去した後、財団が保管していた紙資料は1975年、ローザンヌ州立大学図書館(BCU Lausanne)の写本部門に移管されました。これが今回の「ローザンヌ・コレクション」(現在の請求記号はIS 4314)にあたります。一方、居間の再現セットを含む博物館そのものはその後もリュサンに残り、2001年に城から「メゾン・ルージュ」という建物に移転して、現在も「シャーロック・ホームズ博物館」として公開されています。つまり「展示物としてのホームズの部屋」と「紙の資料群」は、同じアドリアンの遺産でありながら別々の道をたどり、後者が今回のBroadcastで扱われる、という理解でよさそうです。
なお、協会の公式サイトの記載によれば、コレクションの一部は2001年の博物館移転の際に展示の書割の裏から未整理のまま見つかり、その後何年か保存環境の整った場所で処置を受けたのち、2009年になって正式に受け入れられた経緯があるとのことです。当日の講演で詳しい経緯が語られることを期待したいと思います。
75周年とスイスというテーマ
調べていて思い出したのですが、今年はこのオンライン講演だけでなく、協会として15年ぶりとなるスイスへの巡礼旅行「Reichenbach Revisited」も75周年記念行事として実行されていました。ローザンヌから始まりマイリンゲンで終わる5日間の旅程。過去の巡礼は1968年を皮切りに1978、1987、1988、1991、2005、2012年と続いてきたとのことで、マイリンゲンの博物館開館(1991年)やジョン・ダブルデイ作のホームズ像除幕にも協会が関わってきた歴史があります。今回のBroadcastも含め、75周年の今年は図らずも「スイス」が一つの共通点になっているように感じます。
私がスイスに行ったのはもうかなり昔のことですが、ライヘンバッハを中心に回ったため、リュサンにまで行く時間がありませんでした。来年はスイスのホームズ団体のイベントがあるかもしれないと聞いていますので、もし可能であれば行ってみたいと思っていますがどうなることか。
その後に続く回と、その他の秋のイベント
The Baker Street Broadcastは月1回のペースで、10月21日(水)に「現代の警察捜査手法とシャーロック・ホームズ」、11月3日(火)に「英国祭とSHSLの75年」という回が予定されているそうです。後者は先日書いた協会設立の記事ともつながるテーマなので、こちらも申し込みを検討しています。
あわせて、まだ予約は始まっていないものの「Save the date」として案内が出ている行事もあります。10月6日のゴードン博物館訪問、10月8日にナショナル・リベラル・クラブでのフィルム・イブニング、10月27日の「The Game’s Afoot」、そして11月19日には「リチャード・ランセリン・グリーン記念講演」としてマジック・サークルへの訪問が予定されています。リチャード・ランセリン・グリーンは、ジョン・マイケル・ギブソンとの共著『A Bibliography of A. Conan Doyle』(1984年エドガー賞特別賞受賞)のときも紹介しましたが、コナン・ドイル研究の第一人者で、1996年から1999年まで協会の会長も務めた人物です。
まずは9月7日(日本時間8日未明)のローザンヌ・コレクションの回から。当日聴いた内容で、新しい発見があれば、追ってこちらでも書いておきたいと思います。
出典
- The Sherlock Holmes Society of London, “Special Interest Groups”
- The Sherlock Holmes Society of London, “Reichenbach Revisited”
- Bibliothèque cantonale et universitaire – Lausanne, “Arthur Conan Doyle, une personnalité multiple”
- Fondation Sir Arthur Conan Doyle, “A museum for Sherlock Holmes”; “An Alpine Walk”
- Wikipedia, “Adrian Conan Doyle”; “The Boscombe Valley Mystery”; “Richard Lancelyn Green”

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