2026年8月7日:1万人のホームズ役者を記録した男─ハワード・オストロムの「A-Z Index」

シャーロッキアン日記

ロンドン・シャーロック・ホームズ協会(SHSL)の会報『District Messenger』7月号(第466号)に、素晴らしいWebサイトが紹介されていました。

それが、1891年から2024年までのシャーロック・ホームズ演者・関連キャストを網羅した「A-Z Index(アルファベット順インデックス)」です。ウェブサイト「No Place Like Holmes」内で公開されているこのデータベースには、1万人以上の俳優データと2万5千枚以上の写真が収録されています。この壮大なデータベースと、それを築き上げた人物についてご紹介します。

No Place Like Holmes
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フロリダの男が始めた「不可能な使命」

このデータベースを制作・更新し続けているのは、フロリダ在住のシャーロッキアン、ハワード・オストロム(Howard Ostrom)氏です。もともとは研究者のティエリー・サン=ジョアニス(Thierry Saint-Joanis)氏と構想していた『Sherlock Holmes Cyclopedia』の作業用に、自分用の相互参照ファイルとして集め始めたのがきっかけだったそうです。

著名な研究者ピーター・ブラウ(Peter Blau)氏にこの計画を話したところ、「それは『不可能な使命(mission impossible)』だ、いずれ始めたことを後悔するぞ」と制止されたという逸話があります。オストロム氏自身、今では「確かに不可能だった」と笑い交じりに同意しつつも、探求の魅力に取り憑かれ作業を止めることはありませんでした。

2016年時点でまだ約3,000件だったこのインデックスは、その後もオストロム氏が世界各地の新作や過去作品の発掘・記録を精力的に続けたことで着実に成長し、今回の会報での紹介ではついに1万件を突破しました。実にこの10年足らずで3倍以上に膨らんだ計算になります。舞台・映画・テレビ・ラジオ・Webドラマに至るまで、ホームズやワトスンを演じた人物を、著名な俳優から無名の出演者まで分け隔てなく記録する徹底ぶりです。

何が調べられるのか?

このデータベース(A-Z Index)では、名前のアルファベット順から目的の俳優を検索・閲覧することができます。俳優ごとに、出演したホームズ関連作品の名称や演じた役柄、関連する写真画像などが整理されており、どのようなキャストがホームズの世界に関わってきたかを具体的に確かめることができます。

日本の俳優たちも、このデータベースにはしっかり収録

オストロム氏はインタビューの中で、近年フィンランド・ロシア・韓国・日本・中国などで生まれてきた多様なホームズ映像作品に注目していると語っています。英語圏にとどまらず、世界中でホームズが翻案・演じられ続けている現状を、日々データベースを更新する立場から強く実感しているようです。

日本の俳優たちも、このデータベースにはしっかり収録されています。2018年放送の『ミス・シャーロック』でシャーロックを演じた竹内結子さん、2019年放送の『シャーロック アントールドストーリーズ』で主演を務めたディーン・フジオカさんをはじめ、日本発の作品でホームズを演じたキャストたちがきちんとその名を刻んでいます。意外なところでは、柳葉敏郎さんや山城新伍さんも。そして、先日朗読劇を見に行った、ノサカラボホームズの山寺宏一さんもしっかりと入っていました。(山寺さんは朗読劇のみならず人形劇の声もされていてそちらもきちんと記録されていました。)130年余りにわたる「ホームズ役者」の世界的な系譜の中に日本の俳優陣が組み込まれているのを見ると、作品受容史の広がりを肌で感じることができます。

オートグラフ収集家から「記録者」へ

オストロム氏はデータ収集だけでなく、30年以上かけて集めたホームズ&ワトスン役者のサイン入り写真(オートグラフ)コレクションの所有者でもあり、こちらも同サイト内で公開されています。

あるインタビューの中で、氏は「シャーロッキアン」という言葉の定義についてこう述べています。

「自分の定義は他の人よりもずっと緩やかなものだ。学術的にであれ、ただのファンとしてであれ、この作品やこの作者を楽しんでいる人は皆シャーロッキアンだ」

この寛容さとホームズ愛こそが、1万件を超えるデータベースを一人で構築・維持し続ける最大の原動力なのかもしれません。

サイトの全体像と楽しみ方

「No Place Like Holmes」は、自身もWebドラマシリーズ等でホームズを演じた経験を持つロス・K・フォード(Ross K. Foad)氏が運営・ホストするポータルサイトです。オストロム氏の「A-Z Index」やサインコレクションのほか、研究者やファンによるエッセイ集、「ディオゲネス・クラブ・ライブラリー」と名付けられた資料室などで構成されています。

俳優一人ひとりの名前をたどっていくだけでも、ホームズという作品が130年余りの間にどれほど多様な形で、どれほど多くの人々の手によって演じ継がれてきたかが伝わってきます。本格的な調べものにはもちろんのこと、ホームズ映像史に興味がある方なら、俳優名を眺めているだけでも時間を忘れて没頭してしまうサイトです。心強い参照先がまたひとつ増えました。


出典・参考資料:

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