5月25日は、サー・イアン・マッケランの誕生日です。
1939年生まれの彼は、今年87歳を迎えました。ガンダルフ、マグニートー、どのキャラクターを思い浮かべるかは、その人がどんな映画ファンかによって変わってくるでしょう。しかし、シャーロッキアンである私にとって、マッケランといえば一つの作品が真っ先に頭に浮かびます。2015年の映画 Mr. ホームズ です。
「老いたホームズ」という難題
シャーロック・ホームズを演じることは、どんな俳優にとっても難題だろうと思います。さらに「老いたホームズ」を演じることは、また別次元の難しさをはらんでいます。
『Mr. ホームズ』 はビル・コンドン監督によって2015年に制作された作品で、ミッチ・カリンの小説 『A Slight Trick of the Mind』(2005年)を原作としています。
時代設定は1947年。93歳になったホームズは、サセックスの農場で家政婦のマンロー夫人と、その息子ロジャーとともに暮らしながら、引退のきっかけとなった最後の未解決事件の記憶を取り戻そうと格闘します。
圧倒的な知性の持ち主が、記憶と肉体の衰えという抗いがたい現実に直面する——その矛盾をどう体現するか。それがこの映画の核心にある問いです。
マッケランにしかできなかった演技
撮影当時76歳だったマッケランは、老化メイクによってさらに年齢を重ねたホームズ像を体現してみせました。ですが、それは単なる「老人」の演技ではありませんでした。
記憶が朧げになるとき、ホームズは怒りではなく、静かな戸惑いを見せます。かつての鋭さを失いながらも、それでもなお「推理すること」への意志を手放さない。誇りと儚さが同居するその表情は、長年にわたって舞台でシェイクスピアを演じ続けてきたマッケランだからこそ成立したものだと思います。
著名な映画批評家のレナード・マルティンは「イアン・マッケランのスクリーン上での存在感——それ自体が喜びだ」と書いています。
The Grand Gameの文脈で言えば、マッケランが演じたのは「老いたホームズというフィクションの登場人物」ではなく、「実在した探偵が晩年に実際に直面したであろうもの」です。そのように見ると、この映画の重みはまた少し変わってきます。
サセックスの風景と「ホームズの隠居地」
この映画がシャーロッキアンにとってとりわけ心を揺さぶる理由が、もう一つあります。舞台となるサセックスの風景です。
コナン・ドイル(シャーロッキアン的には「ワトスン博士の出版エージェント」)は、短編「最後の挨拶」の序文に、ホームズは「イーストボーンから5マイルほどのダウンズの小さな農場」に引退したと書いています。
研究者の中にはホームズの隠居地をイースト・ディーン村付近と考える人もいました。特定の場所はともかく、映画はイーストボーンのイメージを、息をのむような映像として結晶化しています。
劇中でホームズがロジャーと語りながら坂を歩くシーンは、セヴン・シスターズの白亜の断崖を背景に撮影されていました。
またホームズの邸宅として使われたのは、イースト・サセックスのウィンチェルシー近くにあるウィッカム・マナー・ファームで、厨房、寝室、書斎に改装されたダイニングなど、屋内の各所がロケに使われています。(ここは現在でも宿泊が可能です。)

映画を観ながら、「ここが正典に書かれたホームズの隠居地なのか」と思うと、胸に迫るものがありました。そしてその場所を一目見てみたい、あの美しい風景を見たいという思いが、私をイーストボーンへと向かわせることになります。
そんな思いを長年抱いていた私はついに昨年、その白亜の断崖を前に息をのむことになったのです。
長くなったので、イーストボーンの話はいずれ書きたいと思います。

コメント