先日申し込みの経緯を書いたロンドン・ホームズ協会(Sherlock Holmes Society of London、以下SHSL)の新しいオンライン講座シリーズ「Baker Street Broadcast」の記念すべき第一回が、9月7日(現地時間19時〜20時)に開催され、私も日本時間の未明にオンラインで参加してきました。
今回のテーマは “Dealing with objects of such value”: The Lausanne Arthur Conan Doyle Collection というもので、スイス・ローザンヌ大学図書館(BCUL)が所蔵するコナン・ドイル関連資料についての講演でした。全体の構成としては、まずコレクションがローザンヌに渡った経緯、続いて2021年に行われた資料の再編成プロジェクト、そして原稿・書簡・絵画・スクラップブック・写真といった主要な収蔵資料群の紹介、最後に参加者との質疑応答という流れで進みました。参加者間での共有を前提とした講座内容そのものについてここで詳しくご紹介するのは控えますが、せっかくの機会なので、このコレクションの背景にある「なぜローザンヌにコナン・ドイルの資料があるのか」という部分を、公開されている情報をもとに整理してみたいと思います。
すべての始まりは、息子エイドリアンが購入した一つの城
このコレクションの成り立ちを語るうえで欠かせないのが、アーサー・コナン・ドイルの息子エイドリアン・コナン・ドイルの存在です。甲冑や古い鍵のコレクターとしても知られたエイドリアンは、1965年、スイス・ヴォー州の小さな町リュサン(Lucens)にある古城リュサン城を購入します。そして同年、父の記憶と業績を後世に伝えるべく「サー・アーサー・コナン・ドイル財団」を設立し、翌1966年、俳優ジョン・ネヴィルらの列席のもと城内にシャーロック・ホームズ博物館を開館しました。
この博物館にはロンドンのベイカー街221Bを再現した居間があり、その窓・暖炉・壁は1951年のフェスティバル・オブ・ブリテンのシャーロック・ホームズ展で実際に使われていたもの、家具調度の多くはコナン・ドイル本人の所有品だったといいます。再現にあたっては、同展にも携わったメリルボーン公立図書館の司書ジャック・ソーン氏が協力しました。
エイドリアンは1970年に世を去りました。その後リュサン城は所有者が変わりながらも、博物館自体は1990年代初頭まで存続します。最終的に城は非公開の私邸となりましたが、展示されていたホームズの居間は近隣の建物「メゾン・ルージュ」に移設され、2001年に博物館として再オープンし、現在に至っています。
アーカイブ部分はローザンヌ大学図書館へ
一方、財団が保管していた直筆原稿・書簡・写真・絵画などのアーカイブ資料は、1975年にローザンヌ大学図書館(BCUL)に寄託されました。これが今回の講座で紹介された「ローザンヌのコナン・ドイル・コレクション」の中核部分にあたります。今回の講師は、2021年にこのコレクションの再編・整理という骨の折れる作業を担当した本人とのことで、その点でも興味深い回でした。
BCUL自身が公開している紹介ページによれば、このコレクションにはシャーロック・ホームズ最後の物語『ショスコム荘の冒険』の直筆原稿も含まれており、興味深いことに、原稿上のタイトルは出版時のタイトル(The Adventure of Shoscombe Old Place)とは異なる形(Shoscombe Abbey)になっているとのことです。2022年から2023年にかけて、BCULの展示スペース「ユニテック」では、このファクシミリを含む所蔵品の一部が一般公開されました。
コレクションに残る、ちょっとしたエピソード
講座では実際の所蔵資料に基づくエピソードもいくつか紹介されていましたが、そのうちの一つはBCUL自身の公式ブログでも公開されているものです。1912年に『失われた世界』を出版した際、コナン・ドイルは作中人物ジョージ・エドワード・チャレンジャー教授になりきり、黒々とした付け髭姿で写真に収まったことがあるそうです。翌年のクリスマスには、この扮装のままサンタクロースを演じ、二番目の妻ジーンが主催した子供向けのクリスマス会に登場しました。あまりに変装が真に迫っていたため、義弟にあたる作家E・W・ホーナング(『泥棒紳士ラッフルズ』の作者)はその正体を見抜けなかったといいます。当日の写真は残っていないものの、ジーンが弟マルコムに宛てた手紙にこの様子が記されており、コレクションの中に保管されているとのことでした。
おわりに
ローザンヌ大学図書館の学術アーカイブ・プラットフォーム「Patrinum」上では、このコレクションの詳細な目録がすでに公開されているとのことですので、機会を見つけて自分でも掘り下げてみたいと思っています。「Baker Street Broadcast」は今後も続くシリーズとのことなので、次回以降も参加できればと思います。
出典
- Arthur Conan Doyle Encyclopedia, “Adrian Malcolm Conan Doyle” arthur-conan-doyle.com
- Fondation Sir Arthur Conan Doyle, “A museum for Sherlock Holmes” fondation-sir-acd-expo.ch
- SWI swissinfo.ch, “Two Sherlock Holmes museums in Switzerland? Elementary!” swissinfo.ch
- Lake Geneva Switzerland, “Lucens – Sherlock Holmes Museum, Mini & Swin Golf and Castle near Lausanne, Switzerland” lake-geneva-switzerland.com
- Bibliothèque cantonale et universitaire de Lausanne (BCUL), “Arthur Conan Doyle, a multiple personality” bcu-lausanne.ch
- The Sherlock Holmes Society of London, イベント告知ページ sherlock-holmes.org.uk
- Arthur Conan Doyle Encyclopedia, “The Baker Street Broadcast 2026” arthur-conan-doyle.com

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