本日は、パスティーシュ出版と舞台の領域で、今日という日付に意味のある動きが三つありました。『回想』全12編の続編を集める出版企画と、英国・オーストラリアで動いている二つの舞台を取り上げます。
『シャーロック・ホームズの回想』12編に「続編」を――Belanger Booksの募集が本日締切
ホームズ・パスティーシュを数多く刊行しているBelanger Booksが進めるアンソロジー企画『Beyond the Memoirs of Sherlock Holmes』の投稿募集が、8月15日に締め切りを迎えます。
企画の発想は明快です。『The Memoirs of Sherlock Holmes(シャーロック・ホームズの回想)』に収められた12編――「銀星号事件」「ボール箱」「黄色い顔」「株式仲買店員」「グロリア・スコット号」「マスグレーヴ家の儀式」「ライゲートの大地主」「背中の曲がった男」「入院患者」「ギリシャ語通訳」「海軍条約文書」「最後の事件」――それぞれについて、原作の“その後”を描く新作を募集するというものです。
完成する本は、ドイルの原作を置いた上で、その後に新たな続編を収録する構成が予定されています。一つの正典につき一作だけという方式でもなく、同じ作品に複数の続編が採用される可能性もあるようです。募集要項では5,000〜10,000語程度、採用作には100ドルと掲載巻のペーパーバック一冊が贈られます。刊行予定は2026年末から2027年初頭とされています。
シャーロッキアン的に面白いのは、これは単なる新作短編集ではなく、「正典の余白をどう読むか」を創作によって可視化する企画だという点です。とりわけ『回想』はホームズの過去を語る作品と、モリアーティとの対決へ向かう作品が同居する巻です。その12編すべてを続編という形で再訪することで、現代のパスティーシュ作家たちが正典のどこに“続きを書きたくなる余白”を見つけるのかが見えてきそうです。
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『海軍条約文書』+『唇のねじれた男』から新事件――英国で『The Mystery of the Governor’s Nose』
当サイトでも既にとりあげていますが、英国グロスターシャーでは、この夏、Jenny Wren Productionsによる新作コメディ『Sherlock Holmes and the Mystery of the Governor’s Nose』が野外巡演されています。8月15日はNewent Lake and Parkで午後7時から上演されます。
作品はMatthew BassingtonとAidan Mosbyによる翻案で、劇団側はドイルの「海軍条約文書」と「唇のねじれた男」に着想を得た新作と説明しています。事件の発端は、有名美術館から「The Governor’s Nose」と呼ばれる伝説的な絵画が盗まれること。ホームズとワトスンが調査に乗り出し、ハドスン夫人やレストレードも登場します。
ここで注目したいのは、一篇をそのまま舞台化するのではなく、二つの正典から要素を取り出して別の事件を作っていることです。「海軍条約文書」は盗まれた重要文書をめぐる探索、「唇のねじれた男」は失踪と変装をめぐる謎ですが、それらが“盗まれた絵画”という別の事件へどう組み替えられるのか。正典を素材として使う現代ホームズ劇の一例として興味深い作品です。
公演は7月24日に始まり、グロスターシャー周辺の農場、博物館、公園、ホスピスなどを巡回中。8月15日のNewent公演後も8月末まで複数会場が予定され、10月にはEveryman Theatreでの公演も組まれています。昨日紹介したニューヨークの「踊る人形」と同様、ホームズが夏の野外劇として地域を巡っているという点でも面白い動きです。
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- Jenny Wren Productions — Sherlock Holmes and the Mystery of the Governor’s Nose
- Everyman Theatre — 公演情報
シドニーでも『バスカヴィル』開幕――3人で40役以上を演じるケン・ルドウィッグ版
こちらも当サイトで既報ですが、オーストラリア・シドニー近郊のRockdaleでは、Guild TheatreによるKen Ludwig作『Baskerville: A Sherlock Holmes Mystery』が8月14日に開幕し、15日に最初のマチネ公演を迎えています。上演は9月5日までです。
原作はもちろん『バスカヴィル家の犬』ですが、Ludwig版の特徴は、ホームズとワトスン以外の40を超える登場人物をわずか3人の俳優が次々に演じ分けること。衣装替えや身体的なコメディを前面に出しながら、原作の怪奇性と謎解きを高速の舞台劇へ変換します。
昨日は同じLudwigによる比較的新しい作品『Moriarty』のフロリダ公演を紹介しましたが、『Baskerville』はすでに世界各地で上演されるレパートリーとなっています。同じ劇作家による二つのホームズ劇が、同じ週末にアメリカとオーストラリアの地域劇場で演じられているというのは、現代のホームズ舞台受容の広がりを象徴する光景でもあります。
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今日のまとめ
今日の三件に共通しているのは、正典をそのまま保存するのではなく、その“続き”や“組み替え”によって現在へ運んでいることです。『回想』の各篇に続編を書く、二つの短編から別の事件を作る、『バスカヴィル家の犬』を少人数の高速コメディにする――方法は違っても、いずれもドイルの物語にまだ創作の余地があることを前提にしています。昨日に続き、ホームズが「現役の古典」であることを、出版と舞台の両側から感じさせるニュースでした。



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