2026年8月26日:3度目の正直──トム・ベイカーが演じる「サー・シャーロック」

シャーロッキアン日記

ドクター・フーの第4代ドクターとして知られるトム・ベイカーが、ナイト爵を受けたホームズを演じている——というニュースを見つけました。AUK Studiosが制作するオーディオドラマシリーズ「Sir Sherlock」についてご紹介します。

「3度目の正直」というベイカー自身の言葉

トム・ベイカーがホームズを演じるのは、今回が初めてではありません。1982年のBBCミニシリーズ版『バスカヴィル家の犬』、そして1985年にダブリンのゲイト劇場で初演された舞台劇『The Mask of Moriarty』に続く3度目の挑戦です。ベイカー自身および公式サイトは、この舞台でホームズとモリアーティの両役を演じたとしていますが、初演キャストを記録するIrish Playographyのデータベースでは、モリアーティ役はBrian Munnと明記されており、この点は資料間で食い違いがあることを付記しておきます。

少なくとも1982年版については、ベイカー自身が後年「あの、ホームズを面白く魅力的なものにしている特別な世界へ、キャラクターを引き上げることができなかった」と振り返っています。今回の発表にあたっては「AUK Studiosのおかげで、あの偉大な探偵に再び挑戦する機会をもらえた。3度目の正直だ。今度こそホームズのパイプに顔向けできる演技になったと思う」とコメントしています。

シリーズの筋書き

第1弾『Sir Sherlock: The Red Letter Day』(Kickstarterキャンペーンは2026年1月23日〜3月4日)は、1924年のロンドンが舞台。サセックス・ダウンズで隠居生活を送っていたホームズが、ついに「ナイト爵をようやく受け入れる(finally accepts a knighthood)」ところから物語が始まります(正典の「隠居後は養蜂に専念した」という設定を踏まえたものと思われますが、この点はドラマの公式説明としては確認できていません)。

この「ついに」という一言には、正典上の裏付けがあります。「三人ガリデブ」冒頭でワトスンは、1902年6月について「ホームズがナイト爵を辞退した」と回想しています。つまり正典のホームズは、かつて一度ナイト爵を断っているのです。1924年の『Sir Sherlock』は、単に「老いたホームズがナイト爵をもらった」という設定ではなく、「1902年には断ったものを、22年後になってついに受け入れた」という、正典への一種の応答になっているわけです。

静かな余生も束の間、新たな殺人事件の捜査のためロンドンへ引き戻されるという筋書きです。ワトスン役はジョン・リーソン。ドクター・フーファンにはK-9(ドクター・フーに登場するロボット犬)の声でお馴染みの俳優で、リーソン自身「今回はついに自分がDoctor(=Doctor Watson)を演じられた」と、自らのドクター・フー歴にかけたコメントを寄せています。

当初は3作品限定のシリーズとして企画されていましたが、脚本家自身の言葉によれば「もう少し長く続けられることになった」とのことで、当初の構想を超えてシリーズが継続することになっています。第2弾『Sir Sherlock: The Sickle and the Sea』(2026年6月にKickstarterで発表)では、秘密裏に訪れた成立したばかりのソビエト連邦からの帰路、ロシアの貨物船上で「完全に乾いた状態でありながら溺死したように見える遺体」が発見されるという、いかにも一筋縄ではいかない謎が用意されています。脚本はケントン・ホール氏が担当し、Chinbeard Booksからノベライズ版も刊行される予定とのことです。第1弾でNorton役を演じたニコラス・ロウ氏は、この第2弾では別役のアレクサンダー・イワノフ役を演じています。

さらに直近では、第3弾『Sir Sherlock: The Parting Shot』の制作も発表されました。今度の舞台は黎明期の映画産業の撮影現場とのことです。脚本を手がけるゲイリー・ホプキンス氏は、グラナダ版テレビシリーズ(『The Casebook of Sherlock Holmes』『The Memoirs of Sherlock Holmes』)の脚色も担当してきた人物で、氏自身「当初3作品限定の予定だったこのシリーズが、少し長く続けられることになった。ホームズにとっての終わりと始まりの両方を体現する物語であり、旧知の顔ぶれと新しい顔ぶれの両方が登場する」と語っています。キャストには、1985年映画『ヤング・シャーロック・ホームズ』主演・2015年映画『Mr. Holmes』出演のニコラス・ロウ氏(この第3弾では再びNorton役)や、ドクター・フー第7代のコンパニオン、エース役で知られるソフィー・オルドレッド氏(Lady Vanadia Vallance役)も名を連ねており、ドクター・フーとホームズ、両方の縁がいっそう重なった布陣になっています。

ドクター・フーとホームズの縁

なお、ベイカー本人は2025年にMBE(大英帝国勲章)を受章していますが、これは劇中でホームズが受けるナイト爵とは別のものです。混同しないよう念のため書き添えておきます。

それでも、ベイカーとリーソンという40年以上ぶりの再共演、そしてロウ氏やオルドレッド氏といったホームズ・ドクター・フー双方に縁の深い俳優たちの集結は、単なる懐かしさを越えた布陣の妙を感じさせます。公式の紹介文では、隠居後のホームズとワトスンを「older, wiser and wittier」と表現しており、老いを重ねた二人を意識した作りになっていることは間違いなさそうです。そうした設定も含めて、ベイカーのキャリアの一つの到達点として楽しめそうなシリーズです。


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