ニューヨークの野外『踊る人形』と、フロリダで開幕する『モリアーティ』

今日のホームズニュース

今日は、ホームズが「いま実際に舞台で演じられている」という舞台化に目を向けます。ニューヨークでは「踊る人形」の野外公演が最終週末を迎え、フロリダではケン・ルドウィッグの『モリアーティ』が今日開幕します。どちらも世界初演のニュースではありませんが、正典が現代の地域演劇のなかでどう生き続けているかを見るには、なかなか面白い二つの公演です。

ニューヨークの夏、公園の階段が221Bになる――野外劇『踊る人形』が終盤へ

ニューヨークのRiverside Parkで、Hudson Classical Theater Companyによる『The Dancing Men: A Sherlock Holmes Mystery』が上演されています。公演は7月23日に始まり、8月16日まで。8月14日も午後6時30分から、Soldiers’ and Sailors’ Monumentの北側パティオで上演されます。入場は無料で、事前予約も不要。終演後の寄付を募るという、夏のニューヨークらしい野外演劇です。

原作はもちろん、1903年に発表された「踊る人形」。ヒルトン・キュービットが、自宅周辺に現れる奇妙な棒人間の絵についてホームズに相談し、その暗号が妻エルシーの隠された過去へつながっていく一篇です。今回の舞台版はHudson Classical Theater Companyのエグゼクティブ・アーティスティック・ディレクター、Susane Leeが翻案し、LeeとNicholas Martin-Smithが演出を担当しています。

興味深いのは、この劇団がもともとシェイクスピアやチェーホフを得意とする古典劇団だということです。2026年の夏シーズンも『ワーニャ伯父さん』『ハムレット』と続き、その締めくくりにホームズを置いています。つまり「踊る人形」が、ミステリー作品としてだけでなく、都市の公共空間で上演される「古典」の一つとして扱われているわけです。

しかも「踊る人形」は舞台化との相性が面白い作品です。物語の核になる暗号は文字ではなく図像であり、観客にも視覚的に提示できます。一方で原作の緊張感は、ホームズが現場に到着するまでの時間差や、キュービット夫妻について少しずつ明らかになる情報によって作られています。それを舞台上でどう組み替えるのか。ホームズ作品の翻案を考えるうえでも興味をそそられる公演です。

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5人で40役以上――ケン・ルドウィッグ版『モリアーティ』がフロリダで開幕

もう一つは、8月14日にフロリダ州Fort Walton Beachで開幕するStage Crafters Community Theatreの『Moriarty – A Sherlock Holmes Adventure』です。公演はFort Walton Beach Civic Auditoriumで8月14〜16日と21〜23日に行われます。

作品はアメリカの劇作家Ken Ludwigによる『Ken Ludwig’s Moriarty: A New Sherlock Holmes Adventure』。2023年4月にCleveland Play Houseで初演された比較的新しいホームズ劇で、ボヘミア王の盗まれた手紙をめぐる事件から、スパイ、恐喝、国際的陰謀、そしてモリアーティへと話が膨らんでいきます。ホームズとワトスンに加えてアイリーン・アドラーも重要な役割を担います。

Ken Ludwigは日記でも取り上げたことがありました。

2026年6月12日:『バスカヴィル家の犬』が爆笑コメディに? 米マディソンで舞台版『Baskerville』上演
『バスカヴィル家の犬』といえば、正典のなかでも最も緊張感のある長編小説のひとつです。ダートムーアの霧、魔犬の伝説、よみがえった魔犬——。しかしそのストーリーが、抱腹絶倒のコメディ劇に生まれ変わったら、どうなるでしょうか。アメリカ・ウィスコン...

この作品の仕掛けの一つが、わずか5人の俳優で40を超える役を演じ分けることです。Concord Theatricalsは作品を2時間のコメディ/ミステリーとして紹介しており、原作の一本を忠実に劇化するのではなく、「ボヘミアの醜聞」や「最後の事件」など複数の正典的要素を再構成した新作型のパスティーシュになっています。Ludwig自身も、初演時に単一の原作ではなく複数の短編を織り合わせた作品だと説明しています。

シャーロッキアンとして注目したいのは、この作品が2023年の初演後、各地のプロ劇場だけでなくコミュニティ・シアターへ広がっていることです。Concord Theatricalsは高校、大学、コミュニティ・シアター、プロ劇場など幅広い上演団体を対象作品として挙げています。ホームズ劇が生き続ける仕組みを考えると、大規模な新作映像だけでなく、こうして上演権を取得しやすい現代戯曲として各地で繰り返し演じられることも重要な受容の形でしょう。

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今日のまとめ

今日の二つの舞台は対照的です。一方は1903年の短編「踊る人形」をニューヨークの公園で古典劇として蘇らせ、もう一方は複数の正典を材料に新しい冒険譚を作り、フロリダのコミュニティ・シアターで上演する。ホームズの生命力は、大作映画やテレビシリーズだけにあるのではありません。こうした小さな舞台が世界各地で繰り返されていることも、ホームズが「現役の古典」であり続けている証拠なのだと思います。

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