The District Messenger 第467号(2026年8月号)を読んでいたら、編集者Holly Turner氏の書き出しに、聞き慣れない名前が出てきました。「Fogtownチームからの相次ぐ近況」として、彼らのゲーム『A Rum Case in Fogtown』の「a taster version」に触れた一文があったのですが、それ以上の説明はなく、Fogtownがどういう作品なのかはこの記述だけでは分かりませんでした。気になったので、少し調べてみることにしました。
DMが触れた「taster version」の正体
結論から言うと、このa taster versionが具体的にどの機会・どの媒体で提供されたものかは、今回の調査では特定できませんでした。2024年8月22日にはポートランドのTomorrow Theaterでパイロット上映会が開かれ、観客の声で選択肢を決める形でゲームも披露されたとのことです。同月にはAdventure Game Hotspot誌が短いデモの体験談を掲載しており、2025年11月にはPortland Retro Gaming Expoの「History of FMV Games」パネルでゲームプレイが披露され、2026年9月4日から7日にはSide Group側の告知によればPAX Westでの出展も予告されています(この出展自体が実際に行われたことを裏づける現地報告までは確認できていません)。つまり、この作品の試遊機会自体は過去に複数回あったことになりますが、DM467が指す「a taster version」がこのうちのどれを指すのか、あるいは会員向けの別の機会だったのかは、公開情報だけでは判別できませんでした。したがって本記事でも、DMの原語をそのまま示すにとどめ、無理に断定しないことにします。Turner氏は次号で「micro-review」を掲載すると予告しているので、続報が出ればあらためて紹介したいと思います。
ゲームの現状:公式情報から分かること
A Rum Case in Fogtownは、SteamストアページやSeed&Sparkの企画紹介によれば、実物のパペットをリアルタイムの3D背景と組み合わせて撮影し、あらかじめ撮影された映像クリップを選択に応じてつないでいく、インタラクティブムービー(FMV)形式の作品です。舞台はMrs. Hudが営む酒場で、貯蔵品への妨害事件を探偵のSherblockと相棒のBlocksonが調べていく、という筋書きが紹介されています。プレイヤーの選択によって複数の結末に分かれるとのことです。開発はFogtown GamesとSide Groupの共同、発売元はFogtown Games、対応プラットフォームはWindows・macOS・SteamOS/Linuxですが、発売日は本記事執筆時点でも「To be announced」のままです。なおSide Groupがこの作品でどの工程を担っているかについては、2022年のSeed&Sparkキャンペーンのチーム紹介に、同社創設者Reis Mahnic氏がゲームの「プロジェクトマネージャー兼共同執筆者」として記載されています。ただし現在の開発工程における両社の詳細な分担までは確認できませんでした。
Steamの説明でもう一つ注目したいのは、このゲームがFogtownというTVシリーズの「前日譚」と位置づけられている点です。TVシリーズ自体は現在も制作中とされ、公式サイトが完成済みの本編映像として案内しているのは2024年12月公開のパイロット版(約31分)のみで、本編化の可否や配信先はまだ確認できません。ゲームが単独作品ではなく、パイロットの世界を先取りする位置づけだということは、記事を書くにあたって最初に押さえておきたい点でした。
2022年から現在まで:分かる範囲の沿革
このプロジェクトの構想自体は10年以上前にさかのぼるとParker氏は振り返っていますが、ゲームを伴う企画として公開・資金調達をした節目は2022年のSeed&Sparkでのクラウドファンディングです。このキャンペーンは51,100ドルを調達しており、Parker氏自身も後年のインタビューで「5万ドル超を調達した」と振り返っています。募集期間は「2022年夏の約1か月間」だったとのことです。この時点でのキャンペーンは、パペットによるTVパイロットの制作と、それに並走する短い選択型のPC/Mac向けゲームをセットで提案するものでした。ゲーム自体は、当時のSeed&Spark掲載情報およびSteam上のURLではFogtown: Mystery of the Missing Crimeという名前で紹介されていたことが、同年8月の制作関係者自身の投稿から確認できます。現在のA Rum Case in Fogtownという題名にいつ改められたのかまでは特定できていませんが、少なくとも2022年時点では別題で告知されていた、ということは言えそうです。
その後、パイロット版は同年12月にYouTubeでも公開されました。あらすじは、Izadora Adlerという人物の失踪と、「Moth Napper」なる何者かの陰謀を追う内容とのことです。ゲームの方は、前述の上映会やデモ披露を重ねながら開発が続けられており、2026年9月にはPAX Westへの出展が予告されていますが、発売時期は本記事執筆時点でも発表されていません。
Sherblockという翻案:着想源をたどる
この作品でいちばん気になったのは、ホームズを「Sherblock」というパペット探偵に置き換える発想が、どこから来たのかという点でした。2022年に制作者自身が行ったReddit AMAによると、企画のきっかけはBBC『SHERLOCK』のシーズン1を楽しんだことだったそうですが、より直接的な着想源として挙げられているのは、ジェレミー・ブレット版ホームズと、1966年版『バットマン』テレビシリーズを掛け合わせるイメージだったとのことです。単なるパロディに見えないよう、番組名にホームズの名を冠さず「Fogtown」としたという説明も、この場でなされています。
Sherblock自身の人物像については、Seed&Sparkの企画紹介文が「明晰だが気が散りやすい(bright but easily distracted)」探偵と説明しています。Parker氏はWillamette Weekのインタビューで、この気質を「現代であればADHDと診断されるかもしれない」人物として、謎解きを思考の整理手段にしている、と語っており、同趣旨の説明はパイロット版の公式YouTube概要欄や、氏の別のインタビューでも見られます。複数の場で繰り返し語られている人物造形と言えそうですが、これはあくまで作品内の設定・制作者の表現意図として紹介するもので、実在の人物への医学的な診断を意味するものではありません。
なお、これは公式資料に基づく説明ではなく私自身の気づきにすぎませんが、SherlockをSherblockに、WatsonをBlocksonに変えるという名付け方には、語感を残しながらずらす工夫が感じられます。
パペットを介してホームズを翻案するという試みそのものは、実は前例のないものではありません。日本でも三谷幸喜氏の脚色によるNHK人形劇『シャーロック ホームズ』がありますし、実写映像を用いた選択型のホームズ作品としては、1991年にFM TOWNS向けに発売されたPCゲームSherlock Holmes: Consulting Detectiveという先行例もあります。ですので「パペット版ホームズとして初」「FMV形式のホームズとして初」といった書き方は避けるべきだと思いますが、実物のパペット撮影とリアルタイムのバーチャルプロダクションを組み合わせ、しかもTVシリーズの前日譚というかたちでゲーム化する、という組み合わせ自体は、確認できた範囲では珍しい試みと言えそうです。
今後の楽しみ
発売日未定のプロジェクトなので、今回は「レビュー」ではなく「現在地の確認」という形の記事になりました。DM468で予告されているミニレビューが出れば、a taster versionの正体もいくらか明らかになるかもしれません。個人的には、Reddit AMAで語られていた「ブレット版ホームズ×1966年版バットマン」という着想の組み合わせが、実際の映像でどう表現されているのかを見てみたいところです。パイロット版も、まだ通しで観られていないので、近いうちに時間を取って観てみようと思います。
出典
- The District Messenger, No. 467, August 2026(Sherlock Holmes Society of London)
- A Rum Case in Fogtown – Steam store page
- A Rum Case in Fogtown – SteamDB
- Fogtown Series 公式サイト
- Side Group Games 公式サイト
- Fogtown – Seed&Sparkキャンペーンページ
- Reddit r/IAmA, “We’re the creators of Fogtown…” (2022)
- Reddit r/gaming, “I’m making a puppet-based choose your own adventure style game, called Fogtown!” (2022)
- Willamette Week, “Sherlock Holmes-Inspired TV and Video Game Series ‘Fogtown’ Blends Live Puppetry With 3D Animation” (2024)
- Meet Sean Parker – CanvasRebel
- Side Group, “This Week in Arkheron” – Steam ニュース(2026年8月)
- Fogtown: Mystery of the Moth Napper | Full TV Pilot – YouTube
- Adventure Game Hotspot, “Adventure Game Fan Fair hands-on demo round-up” (2024)
- Reddit r/adventuregames, “History of FMV Games panel…at the Portland Retro Gaming Expo” (2025)
- シャーロック ホームズ(人形劇) – Wikipedia

コメント