2025年10月13日:ホームズと林檎

シャーロッキアン日記

一昨日からJSHC全国大会のために弘前に来ています。

昨日大会は無事に終わったのですが、予約していた飛行機が今日の最終便ということで、今日もたっぷりと時間がありました。

初日に行けなかったところを回ったり、温泉に行ったりしていたのですが、午前中にいったのが「弘前市りんご公園」。

まわりにもリンゴ農園がたくさんある弘前市内からは少し離れたところにある公園となっています。

公園内にもりんご園があって収穫体験もできたり、リンゴ関連製品を売っていたり、レストランでアップルパイが食べられたりと楽しい施設となっています。

シードルの試飲をしたり、りんごを購入したり、アップルパイの食べ比べをしたりと青森最後の日を愉しんできました。

 

ところで、ふと思ったのですがシャーロック・ホームズでリンゴが出てくるシーンがあったのでしょうか。

調べてみると3つの作品で登場しています。

一つ目は「背の曲がった男」。

バークレー夫人が死に別れたと思っていたヘンリー・ウッドと出会った場面。

——『あたしあなたは三十年まえに亡くなったのだとばかり思っていましたのよ、ヘンリー』

——『死んだのさ』といったその人の調子は、ぞっとするほど怕うございました。まっ黒けな恐ろしい顔をして、妙に眼をぎらぎら光らせていました。夢にまで見たくらいです。頭髪にもほおひげにも白いものを交え、顔はしなびたリンゴのようにしわだらけでした。(延原謙訳新潮文庫「背の曲がった男」)

残念ながら、こちらは顔のしわを形容するために用いられたもので、食べ物としての登場ではありませんでした。

 

お次は「黒ピーター」。犯人をおびき出すための募集に応募した3人の一人についての表現です。

戸のそとで、あらあらしい声で何か話していると思ったら、下宿のハドスン夫人がドアをあけて、ベージル船長にといって三人の男が訪ねてきていると告げた。

「一人ずつ通してください」ホームズがいった。

 最初にはいってきたのは、血色のよいほおにやわらかな白い頬髯のあるリブストンの冬リンゴのような感じの男だった。ホームズはポケットから手紙を出してみて、

「名まえは?」と尋いた。

「ジェームズ・ランカスターです」

「ランカスター君か、気の毒だが、もう満員なんだ。せっかくだから、足代としてこの半ソヴリンをあげよう。こっちへはいって、ちょっと待っていてくれたまえ」(延原謙訳新潮文庫「黒ピーター」)

こちらも顔を表現するのにリブストンの冬リンゴをたとえに使っています。リブストンの冬リンゴというのはヴィクトリア時代に一般的だったリンゴの種類のようで、文学作品にも多く登場している様子。

特にディケンズの「ピクウィック・ペーパーズ」でも登場人物の顔を現すのに使われたそうなので、顔を例えるのは一般的だったのかもしれません。日本でもりんごのようなほっぺというのと似たようなニュアンスなのでしょうか。

 

最後は「六つのナポレオン」。

「ふむ、殺されたのはどこの男ですか?」ホームズが尋ねた。

「身もとのわかるものが何一つないのでしてね」レストレードが引きとって、「死体は仮置場へはこんでありますが、今までのところ何もわかっていません。背のたかい日にやけた強そうな男で、三十にはまだなりますまい。服装はみすぼらしいですが、労働者とも思えません。血だまりのなかに、角の柄をつけた海軍ナイフが落ちていました。加害者の遺棄したものか、それとも被害者のものだか不明です。衣服には名まえが一つも見あたらず、ポケットにはリンゴが一つ、糸、やすいロンドン地図、それに写真が一枚あっただけです。これがその写真です」

最後におそらく食べるためのものとしてのリンゴが出てきましたが、残念ながらホームズもワトソンが食べたということではありませんでした。

しかし、顔の様子を表すのにリンゴが使われる、しかもあまりみかけない「しなびたりんご」に例えるあたり、相当庶民的に出回っていた果物だったのではないかと予想されます。従って、きっとホームズとワトソンも日常的に食べていたのではないか、と思われますが、この辺の考察はヴィクトリア時代の食生活などの研究と合わせて考察してみたいと思います。

 

ところで、上述のリブストンの冬リンゴは、英語ではRibston Pippinとなっています。訳語ではリンゴですが、Appleとの違いが気になるところ。

調べてみるとAppleというのはリンゴ全般を指すより広い言葉だそうで、Pippinはフランス語で種を表すpépinに由来するそう。ウェブスター辞書によると、シャキシャキとした酸味のあるリンゴや、個性的で、通常は心地よい意味で個性的な人物を表す言葉としても広く使われてるとのことで、人を表す言葉としても定着してるようですね。

 

冒頭の写真は、大会翌日の今日、リンゴ公園からちょっと離れたバス停に歩いていたときに通った道。リンゴがなっている風景が素敵で撮影しました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました