今日は風があって暑いながらもややましだったでしょうか。
健康診断に行きましたが、特に問題は無かったようで、安心してイギリスに行けます。
『エノーラ・ホームズの事件簿』
遅ればせながらですが、エノーラ・ホームズを見ることができました。
先月、こちらも遅ればせながらVivantを見るためにNetflixに入ったのですが、そういえば界隈で(どの?)話題だった『エノーラ・ホームズ』シリーズを配信していることを思い出し、視聴してみました。
こちら予告編です。
Netflixが配信用に製作したのかと思ってましたが、元々は英米合作の映画作品として製作されたようです。しかしコロナ禍で映画館での上映ができず、Netflixが配信の権利を獲得した、という経緯だそうです。
なので、最初はもっと短い作品を想像していたのですが、たっぷりと2時間ありました。
ストーリー的にはアクションも含めて一転二転するのでかなり没頭してしまいました。当時の女性の立場など社会的な背景もうまく取り入れて奥行きもあったと思います。
シャーロッキアンとしては正典との関係が気になるところです。
まずはいつ頃の話だったのか。シャーロックがすでにロンドンにいて、レストレードとはすでに知り合いだった。ということはケンブリッジもしくはオックスフォード(あるいは両方)を卒業して、ワトソンと会う前のこと。エノーラがホームズの事件簿を読んでいたと言っていたので、それなりに実績を積んでいたことがうかがえます。
ベアリング=グールドによるホームズの伝記によれば、ホームズがモンタギュー街で開業したのは1877年(諸説あり)、ワトソン博士と出会ったのが1881年。
ちなみに最初に開業した頃の様子はこのようなものでした。
君は「グロリア・スコット号」事件で、死んだトリヴァ老人との話の結果が、僕をして現在のような職業に趣味をもたせる最初の機縁になった次第を、まだ覚えているだろう? 今でこそ僕の名もひろく天下に知られるし、むずかしい事件の最後の持ちこみ場として、民間からも警察方面からも認められるようになった。君が初めて僕を知った——例の『緋色の研究』事件として君が書きつづってくれたあの事件の時分でさえ、大した収入にこそならなかったが、僕はすでにかなり認められてはいたんだ。(中略)
最初ロンドンへ出てきた時はモンタギュー街の、大英博物館の角を曲ったところに間借りして、おそろしく退屈な時間を、将来役にたちそうな学問をうんと手びろく勉強して潰していたもんだ。
ときどき事件はころがりこんできた。レジナルド・マスグレーヴは僕とおなじカレッジに学んでいた男で、僕とも面識はあった。(中略)卒業後はその男ともたえて会ったことはなかったのだが、四年目のある朝、ひょっくりモンタギュー街の僕のところへ姿を現わした。(『シャーロック・ホームズの思い出』「マスグレーブ家の儀式」新潮文庫 延原謙訳)
ということは、ワトソンとの出会いの直前、80年とか81年でしょうか。
でも、もう一度最初から見返したら答えは明白でした。
冒頭で、エノーラが生まれたのが1884年、この話はエノーラの16歳の誕生日の一週間後から始まってるので、1900年。ということは正典とは若干(20年ほど)の時間軸のずれがあるようです。
1900年と言えば、ホームズは46歳、マイクロフトは53歳。(諸説あり)本作で登場する二人は、もっと若い時代のように見えます。
マイクロフトはこの頃はすでにかなり太っていたはずですが、本作に登場するマイクロフトはスマートな体型。
マイクロフト・ホームズはシャーロックよりもずっと恰幅がよく、肥ってもいた。からだこそひどく肥っているものの、顔にはどこかシャーロック特有の鋭さが感じられた。遠くのほうをでも見ているような思索的なうす水いろの眼、これはシャーロックが仕事に全力を傾注している時にだけ見られる目つきである。
「初めてお目にかかります」とマイクロフトはアザラシのひれのように平たくて幅のひろい手をだして、「あなたがシャーロックの記録を発表されるようになってから、私はあちこちでシャーロックの評判を聞かされますよ。(『シャーロック・ホームズの思い出』「ギリシャ語通訳」新潮文庫 延原謙訳)
かつあちこち出かけていてかなりアクティブなので、正典とは若干違います。マイクロフトの描き方については、本作で最も違和感を感じたところで、体型もそうですが、性格もかなり違っていて違和感を感じるポイントでした。
エノーラの生まれを1864年にしてくれると、このあたりのつじつまは合うのになあと思いつつ、選挙法改正も背景になるのかと思って調べてみましたが、本作で言われている選挙法改正は、「すべての男性に選挙権を」という台詞があったので、1918年の21歳以上の男性が選挙権を得た選挙法の改正だと思ったのですが、貴族院での通過を巡って問題になった1884年のものなのかもしれません。どちらにしても20年弱の開きがあります。女性参政権は1918年の方で条件付きながら実現しています。女性参政権の話になると、BBC『シャーロック』の「忌まわしき花嫁」も思い出しますが、話がそれるので今回は深入りしません。
まあ、ホームズに妹が居るという違う世界の時間軸の話として割り切る、というのが良いのかもしれません。
ちなみにホームズは「橅屋敷」の中で、「正直に申しますと、これが自分の妹か何かだったら、こういう質問はいやだと思いますね」と言っているので、妹がいる気持ちが分かってるという解釈もあるのかもしれません。BBCでも妹が登場しているのはこのあたりが根っこになってるのかもしれません。
さて、この『エノーラ・ホームズの事件簿』はシリーズになっていて、すでに2作目は公開済み。まだパート2を見てないのでこれから見たいと思いますが、パート3の決定も今年発表されています。
思ったより楽しめたので、パート2も3もさらに楽しめる作品であれば、と思うところです。
映画・ドラマもいいのですが、こちら原作があるんですね。未読なので、こちらもいずれ入手して読んでみたいと思います。
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