聖地でもあるベーカーストリートです。見るべきところが多く、さすがに長くなりそうなので、何回かに分けてご紹介させていただきます。
今回はベーカー街221Bはどこにあったのかに焦点をあててみます。
想定される場所周辺のベーカー街
1.31(221B) Baker Street, W1
ホームズとワトソンがどこに住んでいたのか、当時の記録や地図などから類推する研究が行われています。何のことやらと思われる方もいるかもしれませんが、100年前のベーカー街には221までの番地はなく、現在221があるところは、その後延長されてできた番地になります。Finding Sherlock’s London1というガイド本ではベーカー街31こそが221Bだったという説を支持しています。
ちなみに現在ではホームズ博物館が221Bを名乗っていますが、番地上はもう少し南に本当の221があります。(後述)
ベーカー街と下宿の様子は多くの作品で出てきます。
「緋色の研究」
:翌日、私は約束どおり研究室を訪ねていって、前日ホームズの話していたベーカー街二二一番Bのその部屋をいっしょに見にいった。そこは居心地のよい寝室二つと、気持よく家具も備えてあり、大きな窓が二つあって、明るく風通しのよい大きな居間一室とからなっていた。
(講談社文庫『緋色の研究』)
「オレンジの種五つ」
翌朝は好天気だった。太陽は大ロンドンの空にかかる薄絹をとおして、なごやかに輝いている。起きてみるとホームズはもう朝食のテーブルについていた。
(講談社文庫『シャーロック・ホームズの冒険』)
英語ではSherlock Holmes was already at breakfast when I came downとなっているのですが、この「オレンジの種五つ」以外にも「緑柱石の宝冠」にもワトソンが朝食のために起きて降りてくる記述があります。
「緑柱石の宝冠」
翌朝起きて食事のため下へ降りてみると、いつのまに帰ったのか、彼はちゃんとそこにいてコーヒーカップを手に、片手には新聞をもって、おそろしく元気で服もきちんとしていた。
(講談社文庫『シャーロック・ホームズの叡智』)
こちらの描写ではホームズの部屋の間取りが描かれていますが、これがかえって間取りを考えるのに悩ませる原因ともなっています。
「マザリンの宝石」
「寝室をぬけて出ることにしよう。この出口があるので大いに助かるよ。向こうに見られないで、鮫の様子を見てやりたいのだ。」
(中略)ホームズは一隅にあったヴァイオリンをとって、寝室へ姿を消した。やがてドアを閉めきった寝室から、あの心につきまとうすすり泣くような長い調べが微かにきこえてきた。
(中略)「寝室からべつのドアがあって、あのカーテンの向こうがわへ出られるのです。」
そして、この空き家の冒険での道順から221Bがどこにあるのかを探るというのが一つのオーソドックスな考え方と言えると思います。
「空き家の冒険」
「おお、ベーカー街じゃないか!」私はほこりだらけの窓からそとをのぞいてみた。
「その通り。ここはカムデン・ハウスだよ。そら、僕たちの家のま向かいにあったろう?」
31のあるビルです。
こちらが31。空き家のようです。
221Bのホームズの部屋について
ホームズの部屋については、ベーカー街2でも紹介しているホームズ博物館が有名ですが、シャーロック・ホームズパブでも見ることができます。(2階レストラン)
かつてはマンチェスターにあったグラナダTVのスタジオセットにも部屋がありましたが現在は閉鎖されてしまいました。ここの小道具はベーカー街のMemorabiliaの2階に展示されていたようですが、こちらも今年10月で閉鎖され、小道具はポーツマス市図書館に寄贈されたそうです。この図書館には、最大のホームズコレクションと言われるリチャード・ランセリン・グリーン氏のコレクションも寄贈され、来年7月から公開の予定だそうです。グリーン氏も独自にホームズの部屋を再現していたということですので、こちらの図書館でグラナダまたはグリーン氏のホームズの部屋が見ることができるかもしれません。他にスイスのシャーロック・ホームズ博物館にも部屋が展示されているようです。
2.32 or 34 Baker Street (CAMDEN HOUSE), W1
次はカムデンハウスがあったと思われる場所です。上のホームズの部屋が31だった説も、上述のとおりこのカムデンハウスを元に類推した結果になっています。
「空き家の冒険」
ホームズがロンドン市内のぬけ道に明るいことは、真に驚くべきものがあった。この晩も彼は何のためらうところもなく、私なぞは存在すら知らなかったような厩舎のあいだをぬけて足ばやに歩き、古い陰気な家のたち並ぶ小さい通りへ出たと思ったら、そこからマンチェスター街へ、そしてブランドフォード街へと出た。と思ううちまた素ばやく狭い通路へとびこんで、木の門を潜り、人けのない裏庭に入ると、鍵をだしてとある家の裏戸をあけ、二人がなかに入ると急いであとを閉めた。
(新潮文庫『シャーロック・ホームズの帰還』)
32と34の入ったビル(真ん中)
現在では32と34は同じ建物ですね。
Bairstow Evesという不動産屋さんのようです。「空き家」を貸す不動産ということでぴったりかと。(以前は旅行エージェントだったようです。)
*本記事は著者が2006~07年にロンドン滞在時に訪問した記録です。当時の情報であることをご承知おきください。
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